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名古屋地方裁判所 平成3年(行ウ)2号 判決

原告

株式会社倉五(X)

右代表者代表取締役

倉知治

被告

愛知県知事 鈴木礼治(Y)

右訴訟代理人弁護士

後藤武夫

理由

一  請求原因について

1  請求原因1及び2について

請求原因1及び2の事実は、当事者間に争いがない。

2  同3について

(一)  産業廃棄物処理業の許可を受けた者は、法一二条一項の政令で定める基準に従い、産業廃棄物の収集、運搬又は処分を行わなければならず(法一四条四項)、右基準に適合しない産業廃棄物の処分が行われた場合において、生活環境の保全上重大な支障が生じ、又は生ずるおそれがあると認められるときは、都道府県知事は、当該処分を行った者に対し、その支障の除去又は発生の防止のために必要な措置を講ずべきことを命じることができ(法一九条の二第一項)、産業廃棄物処理業の許可を受けた者が右措置命令に違反する行為をしたときは、都道府県知事は、右許可を取り消すことができる(法一四条八項、七条一一項)。

そして、〔証拠略〕によれば、(1) 被告は、原告に対し、昭和六一年二月二〇日、法一九条の二第一項に基づき、本件各土地の汚でい、廃酸、廃アルカリ、廃油等産業廃棄物を同年三月二二日までに撤去し、適法に処分することを命じたこと(以下「本件措置命令」という。)、(2) 原告は、本件措置命令後も本件各土地の産業廃棄物を撤去せず放置していたので、被告は、同年七月二三日、原告が本件措置命令に違反したことを理由として、本件各許可を取り消す旨の本件各処分を行ったことが認められる。

したがって、本件各処分は、本件措置命令に重大かつ明白な瑕疵があって無効とされる場合でない限り、法一四条八項、七条一一項に基づいてされた適法な処分ということができる。

(二)  そこで、本件措置命令に重大かつ明白な瑕疵があるかどうかについて検討する。

(1) 〔証拠略〕によれば、以下の事実が認められる。

〈1〉 原告は、昭和五八年ころから、本件各土地に中間処分のされていないメッキ汚でい及び許可外の産業廃棄物である廃酸、廃アルカリ、廃油等の一ないし数種を運び込み、処理をしないまま堆積させていた。

〈2〉 昭和六〇年七月一日、江南保健所が本件土地(一)及び(二)において流出水を採取し検査したところ、右流出水から水質汚濁防止法の排水基準を大幅に上回る六価クロムが検出された。

〈3〉 愛知県環境部環境整備課及び江南保健所が合同で同月一〇日及び一一日に本件各土地の立入検査を行ったところ、汚でい、廃酸、廃アルカリ及び廃油の一ないし数種が堆積放置されており、検体採取を行ったうちの三四検体中一五検体から、鉛、六価クロム、全シアン等のいずれかにつき水質汚濁防止法の排水基準を上回る数値が検出された。また、右堆積物の一部については敷地外への流出が認められ、周辺の流出水を採取して分析したところ、右流出水から六価クロムが検出された。

〈4〉 江南保健所が、本件各土地につき、同年一〇月九日に立入検査を、同年一一月七日・八日、同年一一月一九日及び同年一二月一〇日にそれぞれ立入検査及び処分状況調査を行ったところ、産業廃棄物の堆積放置は続いており、廃棄物の量はむしろ増加し、また、本件各土地の表層土には周辺比較土壌に比して濃度の高い有害重金属の含有が認められ、廃棄物の流出があった。

(2) 法一二条一項の政令で定める基準においては、「産業廃棄物の収集、運搬及び処分に当たっては、産業廃棄物が飛散し、及び流出しないようにすること」(廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行令(平成元年政令第一〇三号による改正前のもの。)六条柱書、三条一号)とされているところ、前記1の事実及び右(1)の事実によれば、原告は、産業廃棄物の処分については汚でいのコンクリート固形化処分という中間処分に限って許可を受けていたものであるのに、汚でい以外の産業廃棄物も含め中間処分のされていない産業廃棄物を二年以上堆積放置し、かつ、その一部が流出していたものであるから、右基準に適合しない産業廃棄物の処分が行われた場合に該当するものというべきである(原告は、本件各土地において汚でい、廃酸、廃アルカリ及び廃油の処分を行っていないと主張するけれども、法一九条の二第一項二号にいう「産業廃棄物の処分」には、右(1)において認定したように産業廃棄物を長期間にわたって土地上に堆積放置する行為をも含むものと解すべきである。)

さらに、右(1)の事実によれば、本件各土地からは有害物質が流出した事実があるのであるから、生活環境の保全上重大な支障が生じ、又は生ずるおそれがあることも明らかであり、その支障の除去又は発生防止のために必要な措置として、本件措置命令により、本件各土地の汚でい、廃酸、廃アルカリ、廃油等産業廃棄物を一定の期限までに撤去し、適法に処分することを命じたことは、法一九条の二第一項の要件を満たす適法なものであったということができる。

(3) 原告は、メッキ汚でいを本件土地(一)ないし(三)に運び込んだのは被告自身であると主張するけれども、そのような事実を認めるべき証拠はない。

また、原告は、有害物質が溶出したとしてもそれは原告の責任ではないと主張するけれども、本件措置命令は、有害物質の溶出等により生活環境の保全上重大な支障が生じ、又は生ずるおそれがあることを前提として必要な措置を講ずることを命じたものであるから、仮に第三者の行為又は気象現象により原告が堆積放置していた産業廃棄物から有害物質の溶出が生じたものであるとしても、そのため、本件措置命令に瑕疵があったということはできない。

その他、原告が本件措置命令の無効事由として主張するところは、右(1)及び(2)の判示に照らし、採用することができない。

(4) したがって、本件措置命令は適法であり、重大明白な瑕疵はないというべきである。

(三)  右(一)及び(二)の判示によれば、本件各処分はいずれも適法であり、重大明白な瑕疵はない。

二  結論

以上判示したところによれば、原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡久幸治 裁判官 後藤博 入江猛)

別紙

許可目録

(一) 昭和五三年八月三一日付け五三令環整第一―一一九号産業廃棄物処理業許可

1 営業の種別 収集、運搬、処分(中間処分)

2 取り扱う産業廃棄物 汚でい(有害な汚でいを除く。)

3 処理方式 汚でい(有害な汚でいを除く。)のコンクリート固型化処分

(二) 昭和五三年一〇月三〇日付け五三令環整第二―四〇号産業廃棄物処理業許可

1 営業の種別 収集、運搬、処分(中間処分)

2 取り扱う産業廃棄物 汚でい

3 処理方式 汚でいのコンクリート固型化処分

(別紙)

土地目録

(一) 江南市宮後町上河原一六

(旧地番、江南市大字宮後字上河原一九五四―三外四筆)

(二) 江南市和田勝佐郷中六

(旧地番、江南市大字和田勝佐字北田代二〇及び二夕子一―一)

(三) 江南市和田勝佐郷中六五〇外二筆

(旧地番、江南市大字和田勝佐字南田代五〇外二筆)

(四) 江南市高屋町大松原四〇外二筆

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